2020年代のデジタルものづくり戦略ー産業競争力分析のCAPアプローチ

藤本 隆宏(Takahiro Fujimoto) /早稲田大学研究院教授

トヨタ生産方式、リーン生産方式、TOC, BPRなど、近年における産業現場管理の手法の共通点は「良い設計の良い流れ(flow)」の重視であり、私はそれが「ものづくり経営学」の中核概念であると考える。また、各国の産業発展の歴史的経緯の違いにより、偏在する産業現場の組織能力や、それに対応する比較優位製品の設計思想(アーキテクチャ)には、国ごと地域ごとに違いがある。比較優位の存在しないやりかたで流行追随のデジタル化を推進しても、成果は乏しいだろう。つまり、必要なのは、「横並びのデジタル化」「いいからやれのデジタル化」「怒られないためのデジタル化」ではなく、「良い設計の良い流れ」「設計の比較優位」の基本原則に常に回帰した上でデジタル系を進化させる、戦略的な「勝てるデジタル化」である。そして、勝てる領域を検出する方法の一つは、「組織能力(Capability)-設計思想Architecture)-競争優位(Performance)」のバランスを体系的に見るCAP分析である。つまり、原点回帰と進化が、デジタル化時代のものづくり戦略の要諦である。